20世紀ゲネラールプローベ

電影永年私財法を発布するべくゲネプロ中の備忘録。

2022年映画ベストテン&ワーストテン

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2022年をもってして、映画は何度目かの「死」を迎えたと断言することは過言ではありません。

ゴダールの死、青山真治の死、吉田喜重の死、石井隆の死、ジャン=マリー・ストローブの死、大森一樹の死、ピーター・ボグダノヴィッチの死、アイヴァン・ライトマンの死、そして『食人族』のルッジェロ・デオダート監督までもがこの世を去ってしまいました。

ぼくのようなエセシネフィル、ボンクラ映画ファンにとっても、この喪失感は計り知れなく、自分でも驚くほどに落ち込んだものです。2022年は映画にとって、不幸で最悪な年ではなかったか。それを確認するための、ベストテン作成に至りました。

さて、例年通りに「もしも観ていたらベスト確実だった」という見逃し作品は山のようにあり、特に『ブラックフォン』『グリーンナイト』『マッドゴッド』、この3本は個人的なフェティッシュから判断しても、かなりの確率で好きなやつだったはず……と反省しております。

 

【外国映画ベスト10】

10位『クライ・マッチョ』(2021年/クリント・イーストウッド)

9位『リコリス・ピザ』(2021年/ポール・トーマス・アンダーソン)

8位『ニューオーダー』(2020年/ミシェル・フランコ)

7位『NOPE』(2022年/ジョーダン・ピール)

6位『トップガン マーヴェリック』(2022年/ジョセフ・コシンスキー)

5位『私ときどきレッサーパンダ』(2022年/ドミー・シー)

4位『MEN 同じ顔の男たち』(2022年/アレックス・ガーランド)

3位『アネット』(2021年/レオス・カラックス)

2位『TITANE / チタン』(2021年/ジュリア・デュクルノー)

1位『エルヴィス』(2022年/バズ・ラーマン)

 

【日本映画ベスト10】

10位『フィルム・インフェルノ』(2022年/皆口大地・寺内康太郎)

9位『映画 ゆるキャン△』(2022年/京極義昭)

8位『恋は光』(2022年/小林啓一)

7位『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年/井上雄彦)

6位『こちらあみ子』(2022年/森井勇佑)

5位『マイスモールランド』(2022年/川和田恵真)

4位『ケイコ 目を澄ませて』(2022年/三宅唱)

3位『はい、泳げません』(2022年/渡辺謙作)

2位『麻希のいる世界』(2022年/塩田明彦)

1位『ザ・ミソジニー』(2022年/高橋洋)

 

【ワースト10】

①シン・ウルトラマン
②わたしは最悪
③フレンチ・ディスパッチ

以下、特に語りたくもない同率ワースト

激怒

ジュラシック・ワールド/新たなる支配者

女神の継承

キャメラを止めるな!

モービウス

哭悲 THE SADNESS

大怪獣のあとしまつ

 

つまらないです。3つの短編がそれぞれゴダールやジャック・タチ、ジャン・ルノワールやアンリ=ジョルジュ・クルーゾー、ジャック・ベッケル、ジャック・リヴェット、トリュフォー、ジュリアン・デュヴィヴィエ、アルベール・ラモリスなどといったフランス映画監督たちのオマージュで埋め尽くされ、とにかくフランス映画愛!フランス映画最高です!というウェス・アンダーソンからフランス映画へのラブレター以上でも以下でもありません。

特に2話目『宣言書の改定』は完全に撮り方から作劇まで完全にゴダールで、もうほとんど完コピ。政治の季節に出会った男女のラブストーリーって『中国女』と『男性・女性』じゃん!唐突な死は『女と男のいる舗道』だし、そして『たのしい知識』のスタジオショットまでパクる!徹底したモノマネっぷりは、確かにちょっと面白いのです。

逆に言えば、これはスノッブっぽく聞こえるかもしれないですが、こんなフランス映画好きのシネフィルがゲヘヘと喜びそうな映画がシネコンで大々的に公開されていて客も入っているのは、奇妙な状況だなと感じます。

とは言え、断片的で流動性の無い作劇は、やはり観ていて興味の持続が続かず、次々とバカみたいに几帳面なシンメトリーが、ほとんど強迫観念的に映し出され続けるのはウェス・アンダーソンの手癖ですが、これが本当に"手癖"でしかなくて、つまり必然性をも欠落してしまっている。ああーそこはクローズアップじゃないんだよなー、とか、ええーそこはカラーにしてくれよー、とか、そんな箇所が多すぎます。

極め付けはクライマックスで、肝心の追跡アクションシークエンスをまさかアニメーションで"処理"してしまうとは。最悪でした。アニメーション的とも思えるウェス・アンダーソンの人工的なまでの世界の構築を、実写でめちゃくちゃ頑張ってやっていたからこそ彼の作品は輝いていたのであって、あそこでアニメーションっぽいものをアニメーションでやることに何の"必然性"があるのか。愚の骨頂です。アニメーションそれ自体にも失礼。『タンタンの冒険』っぽいアニメーションだったけれど、そうすればいいってもんじゃない。
たとえば、『ムーンライズ・キングダム』の感動的なクライマックスは、全てがアニメーションのように戯画化されながらも、実写でしか獲得し得ないエモーションがみなぎっていたではありませんか。勘弁してくれよ。

 

②『わたしは最悪』、わたしには最悪でした。

周囲の信頼できる目利きたちから、大傑作!、今年ベストだよ!と、会うたびに推薦される日々を過ごし、トリアー甥っ子苦手なんだよなーと思いつつも、過剰な絶賛に背中を押されてそれなりに期待して鑑賞したのですが、全然ノレませんでした……。『ジャンクヘッド』の時も、世間の絶賛と自分の感想の乖離に脱力したのですが、久々にそれを味わいました……己の映画体験はわたし個人のものだし、絶賛を否定しようとする言葉は持たないけれど、こういう時は、やっぱり悲しい……

2章「浮気」において「どこからが浮気か?」というイチャコラ描写がある通り、この映画は境界を突破することに関する映画だと読み取れます。それはつまり「どこからが夫婦の人生で、どこからが自分の人生なのか」を線引きしようともがくモラトリアムです。時の静止した世界での走行は、それ自体の運動の爽快感(たとえば『リコリス・ピザ』には"走ること"という"運動"自体のエモーションがみなぎっていましたが)ではなく、あの人との境界を超えた!という喜びが描かれていました。

そういったテーマは非常に賢明で興味をそそられはするのですが、本作が果てしなく「作為的」であること、は、はっきりと欠点かと感じます。

本作の主人公は、あらゆる女性の共感ポイントの集合体のような描かれ方で、まるでひとりの生きている人間とは到底感じられませんでした。

最終的な結末に至るまで、ああ、作り手が「この結末」のために、それまでの作劇を誘導してしまっているなと、かなりの危うさと不信感も抱きました。

「作為的」なのがよろしくないのではなく、「作為が丸見え」な状態で完成されているのがもどかしいのです。上映時間中、常にキャラクターの頭上にマリオネットの操り糸が見えているような状況でした。元カレにしたって、あのタイミングでああいう病気になることに「作為」しか感じられません。

しかし、現実はそんな作為よりも「作為的」なのかもしれません。実際、わたしは一体「何者」なんだ?と揺らぐ人々にこの映画が享受されているのも理解しています。

そんな人々に寄り添い、共感し、讃えあうことが出来ない、『わたしは最悪』という映画を楽しめないわたしの敗北宣言としてのワーストです。私は、私は最悪……。

 

①いや、結局、良いところも悪いところも、樋口さんと庵野さん、どっちの責任なのコレ?!という戸惑いが大きかったです。

『シン・ゴジラ』のようにあれ、とまでは言いませんが、まるで美学の欠落したカット割の数々には絶望しました。

数打ちゃ当たると言わんばかりのマルチアングルは、とりあえず現場で撮れるだけのアングルを撮っておいて、あとは編集でなんとかしましょう、という、圧倒的な「映画への信頼感の欠如」のように感じます。プリヴィズを最大限に活用した『シン・ゴジラ』は、アニメの手法で実写映画を撮る、という実験に成功していたと思いますが、『シン・ウルトラマン』では単に、庵野さんっぽいアングルでカメラを置いて撮っておく、映画撮影というよりも、なんだか素材集めのような印象を受けました。とりあえず、庵野さんっぽく撮った素材を、庵野さんに庵野さんっぽく編集してもらう。なるほど、そうすると、どうしたって「映画」たらしめている何かは描けないんだなと。そういう手法でやるならば、わざわざ『シン・ゴジラ』や庵野秀明のマネをする必要はありません。

なんですかあのラストカット。あれ、現場で本当にラストショットのつもりで撮っていたのですか。もしそうだとするならば、やっぱり何か大切なことを見誤っている気がします。米津が流れればいいってもんじゃない。

 

真のワースト1位『オビ・ワン』

ディズニースターウォーズ関係なく、ひたすらつまらなかったです。文化的衰退。まるで、スターウォーズというお墓を綺麗に洗い磨くフリをして、ぐちゃぐちゃに荒らしていった墓泥棒。このシリーズで完全にディズニースターウォーズからのドロップアウトを決意したのですが、そのせいで大傑作と言われている『キャシアン・アンドー』を見逃しました。

 

それでは、長文失礼致しました。来年も映画を観まくろう!!!