20世紀ゲネラールプローベ

電影永年私財法を発布するべくゲネプロ中の備忘録。

最近観た映画の備忘録#7(スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスな映画たち)

f:id:IllmaticXanadu:20200520103717j:plainポンヌフの恋人』(1991年/レオス・カラックス)

DVDにて。カラックスは『汚れた血』がオールタイムフェイヴァリットに大好きで、あとは『ホーリー・モーターズ』と『TOKYO!』の『メルド』も大好きで、実はアレックス三部作それ自体への思い入れはそこまで過多しているわけではないけれど、久しぶりに観た本作は、やっぱりどう考えてもスゲー映画で感銘を受けた。こんな映画、マジで一生に一本しか撮れない類のヤツじゃん。あの有名な、フランス革命200年祭で花火ボッカンボッカンなポンヌフで乱舞するドニ・ラヴァンとビノシュのシーンよりも、地下に貼られたビノシュの顔面デカポスターを全部ブチ燃やすシーンが泣ける。カラックスの心の叫びに全映画ファンが共鳴……。世界のすべてとすれ違ったとしても、それでも走り続けたいと願ったカラックスが、最もすれ違いたくなかったビノシュとのすれ違いを経て、映画による再現/復讐/救済/成就まで辿り着く、ラストの「まどろめ、パリ!」へと辿り着く、映画少年とミューズの世界一美しい失恋のカタチ。ヌーヴェルヴァーグの孫と呼ばれたゴダール大好きカラックスが、その失恋の仕方までゴダールと同じになる辺り、宿命とは恐ろしい。取り返しのつかない気持ちは、映画によって取り返せる。恋も失恋も、映画があれば怖くなんかない。面会にやって来たビノシュの顔のヨリ、からの「治らないものはないわ」、からのこぼれ落ちる一粒の涙、オールタイムベストシーンの一つ。どのビノシュよりも、最も美しいビノシュ。ゴダール然り、カラックス然り、やっぱりカレシが撮るカノジョがいちばん綺麗なんでしょうか。『汚れた血』のスカイダイビング同様に、ビノシュにガチで水上スキーさせて無茶させる辺り、とても可愛い。眼帯トラックスーツ姿のビノシュも可愛い。ドニ・ラヴァン、車に足轢かれてたけど大丈夫なん?!としばらく心配しながら観てしまった。映画が最高潮にジョイフルに到達するポンヌフでの二人の再会シーンで幕を下ろさず、ちゃんとビノシュへ怨念をぶつける行為があって、からの、すべてを水に流そうと言いたげな水中落下があるの、カラックスのことを考えると泣けてしまう。カラックスとビノシュが打ち上げた最後の花火。花火そのものが刹那的な事象であるかの如く、アレックス三部作は事実上、カラックスにとって呪われた映画群となった。しかし、事ここにおいて歴然としていることは、カラックスからビノシュへの愛と私怨以上に、本作は製作過程も含めて「呪われまくった映画」であり、若き映画作家にとっての呪いとは、祝福と同義の機能をしていることに他ならない。ということで、借金、撮影延期、どんどん不機嫌になるビノシュといった地獄のようなメイキングも面白い。

f:id:IllmaticXanadu:20200601183136j:plain『ファイアbyルブタン』(2012/ブリュノ・ユラン)

DVDにて。最ッ高オブ最ッ高。自分が好きなもの、愛してやまないもの、恍惚するもの、憧れを抱くもの、興奮するもの、恐ろしいもの、エロいと感じるもの、そして何よりも超絶に美しいと感じるもの、そのすべてが詰め込まれていた。素晴らしい映画と出会うたびに「もしかして、コレって俺のために作られたんじゃね?」とパラノイア的自意識過剰が起きてしまうのだけれど、クリスチャン・ルブタン監修による「FIRE」という芸術が、まさにそれだった。俺の好きなものしか映らない!やっほう!多幸感!やっぴー!以前『ムーラン・ルージュ』や『NINE』の感想でも記した通り、ぼくはキャバレーやバーレスクやストリップへの強烈なオブセッションとフェティッシュを抱いている。豪華絢爛・ゴージャスフルな空間で歌い踊る女性の肉体/裸体に対する憧れと恐怖は、恐らく死ぬまで続く。そんな自分にとって、本作が最上級の歓びに満ちたものだったことは言うまでもない。パリの老舗ナイトクラブ「クレイジーホース」で、たった80日間のみ披露されたルブタン演出のナイトショー。その映像化を試みた本作。音楽にはデヴィッド・リンチも参加していて、実はほとんどリンチ的なヴィジョンや世界観を漂うことができるというのも、彼のファンには果てしなく嬉しい。もう冒頭のヌード美女兵隊たちからして最高のパフォーマンスだし、エロティックだったりサイケデリックだったりポップだったりモダンだったりして、全パフォーマンス漏れなく素晴らしい。圧巻はラスト。『ブレードランナー』のセクサロイドオマージュな女性たちが、やっぴぃやっぴぃ!くれいじぃくれいじぃ!とファンタスティックに歌い踊る映像には、感情それ自体の震撼を経験した。一生観ていられる。一生観ていたい。映像だけでこの多幸感ならば、もし自分が実際のクレイジーホースを観劇してしまったら、泡吹いて昇天してしまうんじゃないか。いやもう絶対死ぬまでに行くぞクレイジーホース。その夢叶うまでは、DVDを購入したので、今後も繰り返し鑑賞しつつ浸り続けたい。なるべく色鮮やかなカクテルを片手に乾杯しながら観ます。

f:id:IllmaticXanadu:20200531062616p:plainアクロス・ザ・ユニバース』(2007年/ジュリー・テイモア)

DVDにて。よしんば「ビートルズの楽曲だけでミュージカル映画を作っていいよ」と言われたら、どの曲をどんな場面で如何にして並べるか誰しもが高度に夢想してしまうことだけれど、それをホントにやりました、ハイ33曲オールビートルズ、どんなもんじゃい、な映画。ミュージカル映画スキー+ビートルズスキー=自分なので、あまりにもちょろく「最高の映画だ!」と好きな映画の一本になっていたけれど、久しく再見できていなかった(と、思っていたけれど、記憶を辿ればダニー・ボイルの『イエスタデイ』を観る前になんとなく観ていたことを思い出した)。見直して観ると、やっぱりビートルズのみが歌唱されるミュージカルってだけで満点ですという甘々な感想になってしまうのだけれど、映像面でも、良い意味で荒唐無稽でサイケデリックでとても楽しかった。映画の文法に重きを置くというよりは、気持ちイイように繋ぐんだい!という健全なでたらめさに好感が持てる。Strawberry Fields Foreverが流れる中、映写映像でアメリカとベトナムを連結してみたり、バーの鏡に映る主人公・ジュード(めちゃフラグネーム)にマックスがオーバーラップしてHey Judeを歌ったり(ジュードの母ちゃんも「彼女のとこ行ってき」と歌うのが可愛い)、I've Just Seen a Faceを歌いながらのボウリングシーンでは、皆テンション上がりすぎて人間ボウリング会場と化してしっちゃかめっちゃかヘルタースケルター、と、ずっと映像が楽しい。舞台装置バコバコ使うぞーい!という勢いで割と機械仕掛けに動くセットが多くて、特にベルトコンベア式の横移動が印象深かった。I Want You (She's So Heavy)を徴兵スローガンと絡めたり、Oh! Darlingの歌詞を使って舞台上で喧嘩したり、ビートルズのこの曲のこの歌詞だから物語が展開するんです!という逆プレハブ方式シナリオ術によって関連性をちゃんと持たせているのも良い。Happiness Is a Warm Gunのシーンでエッチなナース服のお姉さんが5人も登場してエッチに注射を打っていたので加点対象です。吹き替えなし、しかも生録音で挑んだ俳優陣の芝居・歌唱力も素晴らしかった。ヒロインのエヴァン・レイチェル・ウッドは、どうしても『サーティーン』のゴスっ娘とマリリン・マンソンの元カノという、なんだかダークな印象があったのだけれど、本作では心機一転、学生運動に励む純真かつ燃える正統派ヒロインを見事に演じ切っていた(翌年の『レスラー』ではミッキー・ロークの娘、翌々年の『人生万歳!』ではウディ・アレンの分身のジジイと恋仲になったり、なんとなく女優としてのシフトチェンジに挑んだ3年間だったと思う)。主人公のジム・スタージェスペ・ドゥナの元カレだ!ジョー・アンダーソンが演じるヒロインのルーシーの兄貴・マックスがナイスガイで、ちょっとこのキャラクターへの想いは忘れ去れない。ずっと酒飲んでタバコ吸ってひねくれながらも楽観主義で自由なヒッピー青年なのだけれど、要はめっちゃ「俺たち」側なのだ。ガキの頃にビートルズを聴いて、ロックってカッケー!フリーダム!オールユーニードイズラブ!と憧れていた「俺たち」が、あの兄ちゃんへの親近感に集約されている。加えて、「愛こそはすべてさ」と愛する女性に向かって歌うダチの後ろで「彼女は!マジで!お前のことを!愛してるぞおおお!」と歌い叫ぶ彼の優しさに爆泣き。このShe Loves Youの使い方はすごい。これは完全に脱帽。本当にラスト直前の歌唱だけれど、このアンサンブルにめちゃくちゃ胸を打たれてしまった。映画の中でちゃらんぽらんだった人がクライマックスでかっこ良いところ全部持ってくの、あれズルいよね?泣いちゃうじゃん。

f:id:IllmaticXanadu:20200601151345j:plainメリー・ポピンズ』(1964年/ロバート・スティーヴンソン、ハミルトン・S・ラスク)

DVDにて。いつ何度観ても圧倒的に素晴らしすぎるアルティメット・オールタイムベスト。そりゃもちろん、人生や人格形成にあらゆる影響を与えてきたオールタイムベスト級の映画は山のようにあるけれど、仮にも「俺が一番好きな映画は『メリー・ポピンズ』だ!」と豪語してしまっても過言ではないくらいに、何度も観ているし、永遠不滅の愛すべき大切な一本。

とにかく「映画が喜んでいる」という楽しさでみなぎっている。ほとんどドラッグ的な幸福感の連べ打ち。ジュリー・アンドリュースは生きて歌って踊る「幸福」そのもの。ウルトラナイスガイの我らがディック・ヴァン・ダイクは、彼が楽しそうに思い切り踊っているだけで、涙が出るような感動が湧き上がる。本作が名作たる所以は、漏れなく画面に映っているすべての事柄が最高という点もあるけれど、実は物語の深部に込められた想いにこそ、今尚、ぼくらの感情を揺さぶる力がある。

メリー・ポピンズ』は極めて重層的な作品になっている。この映画の主人公はメリー・ポピンズではない。本編内でメリー・ポピンズは、全く成長しない、言わばスーパーヒーロー/超人/天使として君臨する。彼女が救いに降りた人物とは、果たして子供たちだったのだろうか。否、誰よりも成長すべき登場人物がいたはずだ。それは、彼らの厳格で頑固な父親・バンクス氏のことだ。

現実は誠に辛く厳しい。想像すらできない絶望がそこら中で息を潜めている。しかしメリー・ポピンズは子供たちに対して、そんな「現実の厳しさ」を教えるのではなく、「厳しい現実を生き抜くための武器」を与えていく。例えば、面倒くさい片付けは「ゲームのように楽しくやる」、落ち込んだ時は「意味もない言葉を喋ってみる」、貧しく苦しんでいる人を見かけたら「慈悲とお金を恵んであげる」など。メリー・ポピンズは言う。「苦いお薬も、ひとさじのお砂糖さえあれば飲めるようになるわよ」ここでの「苦いお薬」とは「現実」のことを、「ひとさじのお砂糖」とは「笑顔やユーモア」を指している。バートと共に屋上に登った子供たちは「世界を上からの視点と広い視野で見ること」を学ぶ。そしてバートはこうも教える。「お父さんは寂しくて孤独な人なんだ。お父さんは檻に入っている。銀行という形をした檻だよ」バンクス=銀行という洒落は、ここで意味が付帯される。その後のディズニー映画がそうであったように、実は物語がターゲットにしているのは子どもではない。その子供を連れて来た親だ。すなわち、メリー・ポピンズやバートは、子供ではなく、親に向けて間接的に「厳しい現実を生き抜く術」を伝授している。なぜなら、親たちは「厳しい現実」というものを既に知っているからだ。メリー・ポピンズは、親が子供たちに対してどのように教育をするべきか、そして子供を持つ親たちはどのように生きるべきなのかを説き続ける。

メリー・ポピンズ』の真の主人公は父親であるバンクス氏だ。彼は出世こそが男の生きる道だと自らに定め、その固定観念の中で不器用にもがき苦しむことになる。それはまるで「これまでも、これからも、父親とはそうであって然るべき」という自縛の中で、本来最も大切にするべきだったものを見失っているかのようだ。彼に「大切にするべきだったもの」を気付かせたのは、メリー・ポピンズやバートであり、子供たちの優しい心によるものだった。『メリー・ポピンズ』の真の物語は、バンクス氏の苦悩と、その状況からの脱却にある。鮮やかな色調の果てに到来する、あの夜道を歩く惨めな男の後ろ姿たるや。あまりにも、あまりにも切なく、泣けてしまう名ショットだ。それでも歩き続け、社会や時代や固定観念の象徴たる社長や重役の前に立った彼は、子供たちから教わった「魔法の言葉」をつぶやいて成長する。仕事や出世よりも、家族を愛して、一緒に笑って楽しく生きることを、俺は選ぶ!バンクス氏はここで初めて敵対者と逃げずに「闘い」、「勝利」した彼は笑顔で家へと帰宅する。最初は子供たちと共に上げられなかった凧を、今度は家族4人揃って、一緒に……。

本作の公開年である1964年とは、アメリカにビートルズがやって来たヤァ!ヤァ!ヤァ!の年として重要で、ここで『アクロス・ザ・ユニバース』と本作は繋がってくる。ビートルズアメリカデビュー以降、アメリカはカウンターカルチャーの時代へと突入した。それまでの古臭い固定観念はすべて撤廃し、ラブ&ピースのために若者たちが「闘い」を始めた。そのアゲインストの様子こそ、『アクロス・ザ・ユニバース』で描かれていたベトナム戦争への反対運動だ。バンクス氏の「闘争心」は、まるで歴史を予言するように、現実の若者たちへと伝播していっている。カウンター・カルチャーにとってのメリー・ポピンズこそが、バンクス氏だったのかもしれないと連結させるのは暴論だろうか。

と、あまりにも愛している映画なので初めて改行して記してしまったけれど、まあ、あれです、いつか自分も子を持つ親になったら、絶対に家族でこの映画を観たいということ。メリー・ポピンズが空から降りてこないように、当たり前に子供を愛してあげたいです。そして、ぼくにとっては「映画」こそが、「苦い薬」を飲ませるための「ひとさじの砂糖」であることを、『メリー・ポピンズ』はいつも実感させてくれます。

余談だけれども、いつ観てもペンギンちゃんたちが超絶に可愛い。映画史上最高のペンギン。『メリー・ポピンズ』を観るたびに、脊髄反射的にペンギンに逢いたくなって水族館への欲求が高まるのがやめられない。いやでも『バットマン・リターンズ』のペンギン軍団もすこぶる可愛いくて仕方なかったな……まあいいや!みんなも営業再開した水族館へ行く前に『メリー・ポピンズ』を観よう!(暴論)

f:id:IllmaticXanadu:20200606061706j:plainファントム・オブ・パラダイス』(1974年/ブライアン・デ・パルマ)

Blu-rayにて。いつどんな時に何度観ても、俺の人生で最高の映画!オールタイムベストワン!「何の取り柄もなく/人にも好かれないなら/死んじまえ/悪い事は言わない/生きたところで負け犬/死ねば音楽ぐらいは残る/お前が死ねばみんな喜ぶ/ダラダラといつまでも生き続けるより/思いきりよく燃え尽きよう」何も残さず凡庸に生きるなら、何かを残すために燃え尽きようぜ。早く燃え尽きられる日常が戻って来ますように!!