20世紀ゲネラールプローベ

電影永年私財法を発布するべくゲネプロ中の備忘録。

2021年映画ベストテン&ワースト3

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毎年恒例のベストテン&ワースト3の発表だよ!年越しちゃったけど、やるよ!
 
今年も、もし観ていたらベスト入りしていただろう諸作品を観ておりません。『アメリカン・ユートピア』も『ビーチバム』も『ライトハウス』も『パワー・オブ・ザ・ドッグ』観ていないザコの凡庸なランキングです。ご了承くださいませ。
 
今年は自分の好きな監督たちのエポックな新作が多い年でした。シャマランやエドガー・ライトも、それなりに作家として機能していましたが、ジェームズ・ワン&ガンには到底及びません。結局のところ、全員がホラーというジャンル映画の枠組みの中で、如何にして手数を披露できるか尽力し、その想いがピュアであるほど完成度が摩擦されていたと思います。
 
今年のベスト10は、はっきり言ってしまえば「シンエヴァよりも好きと思える映画があるのか」ということが基準になっていると思います。シンエヴァを観た時は、それはそれは、もう今年はこれ以上に面白い映画は無いだろうとたかをくくったわけです。観終わってからというもの、満足感と虚脱感で神経が疲弊して、何を見てもエヴァを思い出してしまうというパラノイアに陥り、自分で自分を責めました。

ところが、結局年末になってみれば、そんなシンエヴァよりも好きと思える作品が4本もあったわけです。こういった現象は、個人的ではあるにせよ、毎年なるべく多くの映画を観ようとする理由ですし、同時に、ベスト10を作ることの豊かさだと思います。
また、ベストの10本に共通するテーマは「新しいことをやっている」かもしれません。
 
【ベスト10】

f:id:IllmaticXanadu:20211226144522j:plain10位『パーム・スプリングス』(2020年/マックス・バーバコウ)

『恋はデジャ・ヴ』の現代的なアップデートであり、ロマンティックコメディの秀作。タイムリープが繰り返されることによる「虚無」へ打ち勝つための喜怒哀楽とアツい努力が描かれていて、ちゃんと新しいし清々しい。

タイムリープから脱出するために行われる、"タイムリープ機能を利用した実践的脱出方法"にはサムズアップ。低予算のインディーズ映画ですが、アイディアと俳優の力でぐいぐい引っ張る見事な出来です。

途中に挿入される「恐竜を幻視する」シーンは、フィクションやナラティヴの力強さを補強する素晴らしいシーンでした。


f:id:IllmaticXanadu:20211226144015j:plain9位『マトリックス レザレクションズ』(2021/ラナ・ウォシャウスキー)

1作目を当時劇場で初めて観た観客の感情を再現したような、あの前半のメタ構造による不安感と高揚感が素晴らしい。そして、ラナ・ウォシャウスキーという作家のアイデンティティーに寄り添う「女性の映画」になっていたことに胸を打たれました。かつて、望まない性別である自分が撮った映画を、よりその本質に接近する形で解体して、生まれ変わった今の自分がアップデートする、というのは、端的に言って映画史上でも他に類を見ず、興味深く評価することも出来るはずです。

トリニティーが旦那に愛想笑いをしてしまったというエピソードには胸を締め付けられました。一体我々は、自分を嘲笑う者たちと共に、どれだけ自分自身を笑ってしまったことでしょう。こういった印象深い挿話を、バランス良く配置できるラナ・ウォシャウスキーはやはり流石です。
ネオの、攻撃ではなく防御に徹したアクションも、アクションそれ自体によってテーマを物語っており素晴らしいと思いました。アクションがバカカッコいい映画から、引き画の美しさを追求したフィルムになっていたのは、そういった意味で予想を超えましたし、今、作られる意義を感じました。
大事な余談ですが、「トリニティーを破壊しろ!」と命令されたイカロボットちゃんたちが、全速力でトリニティーの元へ駆け付けるのですが、「あれ?! いない!?」と慌てふためいてキョロキョロするシーンが、本当に可愛くて、ほっこりしました。

f:id:IllmaticXanadu:20220101171825j:plain8位『彼女が好きなものは』(2021/草野翔吾)

『顔だけ先生』というドラマがありまして、普段テレビドラマは好んで見ないのですが、コレはノンストレスで見れてとても良かったです。そのドラマの主演の先生が本作の主人公・神尾楓珠さんなのですが、まあ顔が本当にいいんです。ウルトラ美少年というだけじゃなくて、映画に愛されてる画になる顔なんです。こういう俳優をスクリーンでもっと観たい。ヒロインの山田杏奈さんも素晴らしく、彼女のスピーチシーンにはぐっときました。
実はあまり前情報が無い方が楽しめる作品になっていて、要は「ある議題の結論を導くためのディスカッション」が行われるのですが、観終わった未だに、宙吊りにされている余韻があります。これもアイデンティティーに関するひとつの「哲学」を示した作品なので、『マトリックス レザレクションズ』や『フリー・ガイ』と、実はそう遠くない思想が描かれている傑作だと思います。なんとなく見逃されてそうなので、是非とも。
 

f:id:IllmaticXanadu:20211226144841j:plain7位『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021/ジョン・ワッツ)

試写会で拝見しました。このようにして、日本公開前の新作をランクインさせることは、他の誰かがやったら「マウント取るなよ」と思うのですが、極私的なアソビですから許してください。
『ノー・ウェイ・ホーム』は、今年一番の「最大瞬間風速」を叩き出した作品です。正直、ぼくにとってはそれ以上でも以下でもありません。ただ、映画を観ていてこんなに何回も脊髄反射的に泣かされたのは、今年はコレが一番でした。
もしかすると、『フォースの覚醒』や『ローグワン』に近い感覚なのかもしれませんし、キャラクターを「作り手の勝手な意志によって」再び物語に呼び戻す、ということへの違和感は強い方なのですが、コレは参りました。お見事。
加えて、ジョン・ワッツ監督は交通整理力があり、本当に上手い作家だと思います。ドクターストレンジが絡むので、騙し絵的トリップ映像がわんさか出てくるのも、個人的にはイェーイ!でした。
 

f:id:IllmaticXanadu:20220101173412j:plain6位『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(2021/吉川知宏)

今年一番驚き、笑い、開いた口が閉まらないアヴァンギャルドな傑作でした。正直、初めて観た時は今年ベストワン!と思ったのですが、一緒に観た友人がその後19回も観ていて(19回目も一緒に観ました)、なんかぼくなんかが1位と言ってしまっていいのかしら……なんて考えていたらこの順位です。
正直、シンエヴァよりも「面白い」と思います。とにかく、シンエヴァの「ゴルゴダオブジェクト」のシークエンスは短いけれど、スタァライトは尺の半分以上でゴルゴダオブジェクトを披露してみせるという、ちょっと常識的には考えられない新しさがあります。
ぼくは『マルホランド・ドライブ』や『TAKESHI'S』や『風立ちぬ』や『8 1/2』などの、心理描写や主観を客観として具現化して描いてみせる映画が大好きなのですが、スタァライトの面白さもそういった種類のものです。だから実は『Air/まごころを、君に』に大変近く、尚且つ、こちらは鬱バージョンではなく躁バージョンで、どっちが優れてるとかではなく、どっちも好きです。
そして、「劇場」で「観客」として「鑑賞」することがこれほど重要な作品は珍しく、それはつまり「我々が彼女たちの葛藤する姿を欲求している空間」として劇場とスクリーンが繋がる構造だからです。俺らがいるから、彼女たちは舞台に立たざるを得なくなるという。恐怖映画じゃん。ドキッとするメタをすんなりやります。ディズニーのアトラクションみたい。
おっかなびっくりするくらい状況説明が無いのですが、それこそが観客の能動性を仰いでいて素晴らしいです。TVシリーズを観る必要ありません。まずはこの一度きりの驚きを体験していただけると嬉しく思います。

f:id:IllmaticXanadu:20211226144448j:plain5位『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』(2021/庵野秀明)

シンエヴァは映画作品というよりも「未精算の過去の精算」として、ありがとうございました映画です。「ありがとうございました度」は、個人的にはスタァライトよりも高かったので5位です。ようやくシンジとゲンドウが殴り合って本当に良かった。上映形態を変えながら劇場で合計で5回観ましたし、アマプラに来てからも10回は観たくらいには好きです。しかし、それではエヴァという呪縛から自分は卒業出来ていないのではないか、とも自問自答してしまいます。でもアンタが作った上で終わらせなかったんじゃん、とも思う。いや、俺たちが庵野に終わらせなかったのか……とも思う。ともかく、我々にとっての時代の転換点的作品なのは間違い無いでしょう。『激突!轟天対大魔艦』が流れた時、面白すぎて泣いちゃいました(冬月先生が斜め直立しながら立ち塞がるのヤバすぎ)。アヴァンもかっこよくて素晴らしい。
また、作者のパーソナリティと作品がメタフォリカルに直結している点が『マトリックス・レザレクションズ』と酷似していると感じました。

f:id:IllmaticXanadu:20220101173621j:plain4位『フリー・ガイ』(2021/ショーン・レヴィ)

本作を『マトリックス レザレクションズ』よりも上に選んだことは、意思表明に近いです。つまり、『マトリックス』の新作が公開される前に、『フリー・ガイ』という傑作によって、『マトリックス』で問題提起されていた実存主義や自由意志の哲学がアップデートされていたことは、時代の転換点として興味深く、その優位性を評価するためにもこのような順位となりました。めっちゃ「哲学」なのに、すこぶる楽しい、というのは、やはり才能だと思います。
予告やポスターやシノプシスに漂う「出オチじゃん……またこういう映画か……」という予想を遥かに超える新しさと誠実さが詰まった映画で、素通りせずにキャッチして本当に良かった映画。やはり映画は観るまで分かりません。
また、『ゼイリブ』的な構造も含まれており、やっぱり自由意志や実存に接近していく映画は大好きだなぁと感じました。ジョディ・カマーは今年のベストアクトレスかもしれません。
 

f:id:IllmaticXanadu:20220101233604j:plain3位『最後の決闘裁判』(2021/リドリー・スコット)

『プロメテウス』以降、どうやら自分は完全にリドリー・スコットの虜で、絶大な迅雷を寄せてめちゃ早ペースで撮られていく新作を楽しみにし続けています。で、また来たホームラン。
研ぎ澄まされた映像美や美術は朝飯前で、『羅生門』形式をレファレンスとしながら、その『羅生門』にすら感じられた女性蔑視な側面を批評する形で、現代にこそ通じて"しまう"残酷極まりない悲劇に対して映画がアゲインストを鼓舞してみせる、そして果てしなくエンタテイメントでもある。映画を観ることの恐ろしさと快感が鮨詰め状態。ああ最高。
リドリー・スコット御大83歳にして、まだまだ名作創造主。「もはやデビュー作が『デュエリスト/決闘者』なんだし、この『LAST DUEL』が遺作となったらフィルモグラフィは相当かっけーんじゃないか……」などと不謹慎にも考えるも、本作を観に行くと上映前に『ハウス・オブ・グッチ』の予告が上映されるという。リドスコの新作を観に行くと、リドスコの新作の予告が流れている。さすが早撮り番長。この異常事態にも笑う。
所謂「フェミニズム映画」とジャンル分けしてしまうには、大変にレイヤーの多い多層的な作品でもあるため、個人的には普遍的なクラシックに成り得ていると感じます。
MeTooムーブメントで株を落としかけたベン・アフレックマット・デイモンによる共作脚本は彼らの懺悔のようでもあり、そこにニコール・ホロフセナーを加えたことによって、間違いなくスクリプトの格上げに成功しているのもサムズアップ!
個人的にはジョディ・カマーは『フリー・ガイ』も魅力的でしたし、オスカーにノミネートされてほしいと懇願するほどには素晴らしい芝居でした。彼女に起こる最低最悪な事件然り、彼女の周囲にいる義母や女友達すら敵と化していくあまりにもハードコアな展開に対して、彼女の屈しない強い意志が対抗を続ける。この場合の意思とは、宗教や社会が規定している正しさではなく、自分自身が正しいと思うものを信じ通すという自由意志のことです。たとえ脅されようとも、私は私の尊厳のために屈しない。それはすなわち、未来の女性たちのための"決闘"でもある。だからこそ、この映画のラストショットは、あの表情以外考えられない。
靴を脱いだショットと、靴が脱げたショット。たったそれだけの僅かな映像だけで、現実も真実も変容してしまう。作り手たちは"何をどう見せるか"、そしてわたしたちが"何を見るか"、そんな共同作業の果ての満足感を味わい尽くしてほしいです。
 

f:id:IllmaticXanadu:20211226145805j:plain2位『ザ・スーサイド・スクワッド』(2021/ジェームズ・ガン)

金の掛かったトロマ映画。超最高。こんな映画、もう二度と作られない。

優生思想に対するあまりにもきらきらと光り輝くアンチテーゼ&アゲインスト。この世に、無意味な人間なんていない、それはどんなクソッタレもだ!ちゃんと怪獣映画をやるところも、ウルトラマンをやるところも好き。ハーレイがバトる時にメリーポピンズよろしく鳥ちゃんが飛んできたり、ぶわーっと花びらが舞ったりするシーンも白眉。彼女は狂っているが故に、彼女の目からはああいった景色が見えているという美しさは、これまでのハーレイの実写化作品で、最も彼女のキャラクター性と映画的な美学を連結させることができている描写だった。そしてクライマックスでハーレイが見る景色、今までのどんな映画でも観たことがない優しい景色で、その美しさに感涙しました。

あとはポルカドットマン!アイツ最高!大好き!「俺はヒーローだ!」泣くわあんなの。『ダンボ』が好きなので。いや、あんなん最高だよ。デヴィッド・ダストマルチャンの実人生も知ってると、余計に泣けちゃうよ。最高かよ。なんかサイコーしか言ってないな、俺……。

ディズニーにクビ切られたジェームズ・ガンが大反省しながらも、笑うしかないレベルまでやりたい放題大暴れしていて、特にクライマックスはネズミー・ミッキーへの当て付けですよね。いいぞ、もっとやれ!!!

 

f:id:IllmaticXanadu:20211226150048j:plain1位『マリグナント 凶暴な悪夢』(2021/ジェームズ・ワン)

3位から上は、はっきり言って全部1位級に好きな作品です。だから、ぜんぶ1位です。『最後の決闘裁判』も『ザ・スーサイド・スクワッド』も『マリグナント』も、ああ、自分は「映画」を観ているな、こういう作品と出会うために映画館に来てるな、と、ニコニコ、ぽかぽかしました。
とは言え、やっぱり『マリグナント』よ。超絶最高大傑作。何もかもが素晴らしくてうっとりです。とにかく徹頭徹尾、展開が上手いのはもちろんのこと、ナラティブとして偉すぎるのです。
デ・パルマダリオ・アルジェントデヴィッド・リンチ黒沢清、マリオ・バーヴァ、ジョン・カーペンター、クローネンバーグ、スラッシャーにスピリチュアル系、ルチオ・フルチ感もあれば死霊のはらわたにリングに女囚映画まで!ありとあらゆるホラー映画のモザイクでありながら、そのパスティーシュに帰結せず、全く観たことのない新しい超面白ホラー映画を爆誕させたジェームズ・ワンてんてーの志しの高さに感服しました。
あるシーン、バレぬように曖昧に言うと「注射を打ったらカメラはこっち来て」的なシーンがあるのですが、その瞬間、スクリーンに映し出されたショットを観て「偉い!偉すぎる!わーそういう話なんだ!面白すぎる!」と泣きました。
特にデパルマのファンなので、あそことあそことあそことあそこも感涙しました。
狼の死刑宣告』においてスゴすぎ駐車場アクションシーンを撮ったジェームズ・ワンらしく、途中大アクションチェイスになったりするのも本当に偉かった。
カーテンが揺れてるのも偉かった。アルジェントの『サスペリア』だけじゃなく『オペラ座』もオマージュしてて偉かった。『死霊のはらわた』みたいに天井から部屋を撮ったのも偉かった。突然、女囚映画みたいになるのも偉かった。妹が姉のために頑張る映画として、アナ雪よりも俺は好きだった。
本件のトリガーとなる出来事が、男性の暴力であって、それがマリグナント(生命を授かること)とも密接に関わることが現代の映画としてもヤバイ。上手い……。
オマージュやクリシェを利用しながらも、予想外の展開で観客を誘引する本作。それがシネフィル的な知識披露ではなく、ホラー映画の面白そうな要素をシーンごとに幾多もブチ込み、しかしそれが空中分解していない、崩壊していない確かな演出力の強固さによってグイグイ面白さが増していく。夢のような映画だ……だいすきだ、さいこうだ……こういう映画と出逢うために映画館に行っているのだ……超面白いし、観た人と好きなところや怖かったところをたくさん話したいから、みんなも観てね!!おすすめです!!
ジャーロというジャンルの再現を試みる『マリグナント』と、『ラストナイト・イン・ソーホー』が同年に作られたというのは、同時代的な現象として大変興味深いことです。
中学生の頃、部活をサボってアルジェントやデ・パルマを観ていて本当に良かった。
 
【2021年映画ベスト10】

10位 パームスプリングス
9位 マトリックス レザレクションズ
8位 彼女が好きなものは
7位 スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
6位 劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト
5位 シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇
4位 フリー・ガイ
3位 最後の決闘裁判
2位 ザ・スーサイド・スクワッド
1位 マリグナント 凶暴な悪夢
 
次点はこんな感じの5本⇨『花束みたいな恋をした』『クルエラ』『ファーザー』『モータル・コンバット』『偶然と想像』(2話目最高!エっロい!)


【ワースト3】

1位 JUNK HEAD

2位 えんとつ町のプペル(去年の映画ですが、今年の1本目として観ました)

3位 隔たる世界の2人

去年、『バイバイ、ヴァンプ』を観て以来、もうハズレと分かっているような凡作をわざわざ当たり屋的に観に行くのはやめにしようと決意しましたので、今年はワースト級に嫌悪感を抱く作品を、幸いなことにあまり観ておりません。
とか言いつつ、『えんとつ町のプペル』を年明け早々に観て、『海獣の子供』の制作会社ですから、「意外に良かったりするんじゃないのぉ?!」と割と期待もあったのですが、始まって早々に感情は打ち砕かれ、映画館という牢獄の中で、あまりの悲惨さにお金と時間の大切さを悟りました。
「あきらめるな!」とか「夢は素晴らしい!」とか「上を向いて歩こう!」とか「人を笑うな!」とか、そういった文言は道徳の教科書かブログに書いてもらえれば結構です。子供たちへの教育的な悪影響も感じられ、やはり俗悪と感じざるを得ません。
めちゃめちゃ泣いている観客もいらっしゃって、なんだか道徳的な同調圧力を感じる作風も、場内で俺以外が泣いている様子も含めて、去年の『アルプススタンドのはしの方』と同じ欺瞞を受け取りました。

3位の『隔たる世界の2人』はNetflixオリジナルの短編でアカデミー賞も短編部門で受賞した作品です。タイムリープとブラックライブズマターを掛け合わせたのは発明ですし、素晴らしい着眼点でした。しかし、発明ではあるけど発見はありません。ソーシャルメディアやニュース番組で見聞きしてきたメッセージ以上の「ことば」は無いのです。
だからこれでは映画を利用したプロパガンダになっちゃうし、最後の被害者たちの実名の羅列はあまりにも下品でした。欺瞞だと言いたいのではなく、あの演出には余韻を消し去る作用があって、観客を信頼してないのが良くありません。これぐらい言わないと分からないだろ、考えないだろ、食らわないだろ、という作り手の過剰な接待と言語感覚が、自ら感想を単一化していて本当によくないです。
映画はシュプレヒコールのためのプラカードでもスローガンでもないです。本来は、観客の心にそれぞれ"発見"させないとならないはずじゃないですか、そういう気持ちや考え方って。メッセージが先行している、メッセージのために作られた映画は、ぼくはあまり好きではありません。
 
1位の『JUNK HEAD』は大嫌いです。超つまらない。詳しくはブログに書きました。https://campanella-exodus.hatenadiary.com/entry/2021/04/02/
7年間マスターベーションを続けた作家が、その果てに射精にも至らない、あまりにも退屈で陰鬱とした時間で、こんなものの世評がよろしいということは、日本でSFが普及しないこと、そしてプイプイモルカーを喪失した人々によるストップモーションアニメ・クライシスの補完は、あっさり簡単なんだなあと真顔で感じます。
独創性に欠ける、とまでは言わないが、端的に言って音が全くダメで、音が一音も楽しくない。音よりも画面に精神が注がれるのは、自主映画が最も陥りやすい罠です。劇場でこんな音流すなよ。『スター・ウォーズ原理主義ではありませんが、SFの音ってセンスオブワンダーなんだよ、どれだけ重要か知ってるか。
粘土遊びも大概にしてください。そして、「もう粘土で遊ぶのやめろよ」と肩をポンと叩く、優秀なプロデューサーと出逢えることを切に祈ります。
 
【楽しかったけど、それはどーなんだ?とも思うけど、ベストでもワーストでもないモヤモヤ映画大賞】
 
『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021/エドガー・ライト)
 

f:id:IllmaticXanadu:20220101173955j:plainちなみに、ワーストとは言いませんけれど、『ラストナイト・イン・ソーホー』の出来には未だにモヤモヤしています。前半は超面白い。上京映画として、大学進学時の痛みや苦しさ、それでも明るい未来を目指す高揚感に、田舎から上京した者ですから大変共感を覚えました。

結局のところ、この映画の魅力はサンディなのですが、この映画を錯綜させたのもサンディだと思います。そうであるならば、エドガー・ライトは、シスターフッド、あるいはニアイコール・シスターフッドを撮る必要なんて無かったし、やっぱりブロマンスの手癖を自ら否定出来ていない辺り、覚悟が足りません。どんでん返し以降の結末も、フィクションで何でも救えると思うなよ、なんならフィクションでお前ら救われたと思うなよ、というナラティブへの抵抗をやってのけていて、これはこれでぼくは好きなのですが、でも結局エドガー・ライトは「フィクションは素晴らしくて崇高なものだ」という信仰から離脱できていません。離脱できていないのに、信じ切っていないことを同時代的な新しいクリシェとしてやろうとしているのが、お前さん、分かっておらんなあと感じた次第です。
アニャさんもトーマシン・マッケンジーも魅力的ですが、それは彼女たちの存在自体が元々魅力的なだけであって、全く彼女たちを美しく撮ろうとしていません。セットに灯されるマリオ・バーヴァな照明は素晴らしかったですが、彼女たちに当てられる照明は全然なってない。
エドガー・ライトによる演出が全然感じられず、ただただ抑制されていない女優たちが、「意外性」のためにおっかなびっくりする「装置」として「配置」されているだけの作品……やっぱりエドガー・ライトは男の映画しか撮れないのだろうか……。
と、長々と想いを馳せれるくらいには、やっぱり面白くも観たし、ワーストとは言い難いです。
 
それでは、長文失礼致しました。皆様、今年も映画を観まくろう!!!