20世紀ゲネラールプローベ

電影永年私財法を発布するべくゲネプロ中の備忘録。

君を見上げていたぼく、あなたを見上げていた私『タイタニック』

f:id:IllmaticXanadu:20201215094213j:image2012年にタイタニック沈没100周年で3Dリマスタリングされた『タイタニック3D』を劇場で観ていないので、およそ10年ぶりくらいに観た。めちゃくちゃ面白かったな。「タイタニックとかベタすぎるだろw」とアンチミーハー野郎に苦笑されるかもしれないけれど、やっぱり良いものは良い。ボロボロ泣けてしまう。これは名作だわ。

最後、ジャックと約束してきた事を全てローズが実行していたことが飾られた写真で判明し、もうそこで涙腺が緩むのだけれど、そのまま夢の中、いやあるいは天国なのかもしれないけれど、ともかくおばあちゃんだったローズが若返り、ジャックと「約束の場所」でもう一度キスをするシーンの「ええ話や……(泣)」なエモーションがやばい。おばあちゃん、マジで、マジで良かったねえ……と移入して感動してしまった。

f:id:IllmaticXanadu:20201215111313j:image恋愛映画としてもディザスター映画としても、ジャンク要素が排斥された一級品といった具合で、その行儀の良い健全性と受け入れやすさ故にアンチミーハーが唾を飛ばしたがるのかもしれないけれど、格調高く丁寧に撮られている、というよりも、意外にバッサバッサとカッティングしていく感触があって、これはぼくにとっては新しい発見だった。昔観た印象よりも、よほどクレバーな映画だと感じた。

たとえば、かの有名な船首でジャックとローズが初めてキスするシーンは、よく観るとエッ?!と思うくらいにピンボケしている。実際、このシーンの撮影はマジックアワーを狙って行われ、スケジュールを無視してかなり突発的に撮られたという。だからフォーカスが甘いのだけれど、劇中のエモーション作りと観客の感情移入がクリアしているため、本編を観ている時には全く気にならない。もちろん、キャメロンは最初のテイクがピンボケだったのでリテイクしたけれど、最初のテイクのマジックアワーの美しさと二人の芝居の素晴らしさを優先して、本編にはピンボケの「ミステイク」を使用している。こういった判断こそ、ぼくがジェームズ・キャメロンという作家にいいね!とサムズアップ出来る点だ。

f:id:IllmaticXanadu:20201215111336p:image子供の頃に観た時は、ジェームズ・キャメロンという監督がどういう作家なのかあまり考えずに観ていた。単にドンパチアクション監督だと思っていたはず。だから『エイリアン2』や『ターミネーター2』というアクション映画と比べて、なんだよ恋愛映画かよ、船が沈没してからの方が面白いな、なんてぼんやり感じていた。ところが、大人になって久々に観たら、これはジェームズ・キャメロンそのもののような映画だった。キャメロンファンには承知の事実なのだろうけれど、『タイタニック』はこれでもかと彼の作家性がむき出しになっている。

本来は強い力の素質を秘めたヒロインが、環境や状況のせいで窮屈に生きている中、謎の男と出逢い、彼が彼女を導く。やがて二人は恋に落ちて、セックスもする。そして導いた男は死ぬ。残されたヒロインは彼の意志を継いで強く生きていく決心をする。

実はこのストーリーラインは『ターミネーター』を説明したものだけれど、そっくりそのまま『タイタニック』に置き換えることが可能だ。

あるいは、閉じ込められたジャックを助けにエレベーターで向かうローズの姿は、『エイリアン2』のニュート救出へ向かうリプリーと大きく重なるといえる。

加えて、狂ったように深海オタクなキャメロンは、劇中のトレジャーハンター、ビル・パクストンに自身を投影している。「3年間タイタニックのことばかり考えてきた。でも、僕はタイタニックの何も分かっていなかった」というビル・パクストンの台詞は、『タイタニック』という映画を完成させたキャメロンの言葉のように聞こえてならない。

ちなみに、キャメロンはローズの孫娘を演じたスージー・エイミスと2000年に結婚している。

 

こうして考えると、むしろ『アバター』こそが彼のフィルモグラフィにおいて異端の作品であって、なぜならあの映画、「強い女」要素は脇にミシェル・ロドリゲス姐さんを添えるくらいで、最初から最後まで「男」が活躍し続ける完全なる「男」の映画だったからだ。『アバター』は全然好きじゃない映画なのだけれど、それは彼が3D映像とマッチョイズムに舵を切った結果、本来の作家性が削ぎ落とされた印象が強かったからなのかもしれない。

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子供の頃は、後半の沈没シークエンスの方に興味が強くて、DVDの特典の特撮メイキングをよく観ていた。CGと船のミニチュアと実物大のセット(船の右側だけ作られて、左側は映像を反転している。だから現場で俳優たちは左右逆の動きを演出されている!)を駆使して、阿鼻叫喚の地獄絵図を作り上げる職人たちの腕にワクワクしていた。船の全体を作るのに時間が掛かるため、船尾だけ作られて先に沈没シーンを撮ったというのは有名な話。後に「あの浮かぶドアには二人とも乗れるのではないか?」と物議を醸した件について、キャメロンはメイキングで「確かにね。もっと小さく作れば良かったわ」と述べている。タイタニック同様、なんでも大きく、サイズにこだわるのはフロイトの説だと……。

あと、劇中のローズのデッサンはキャメロン自身が描いているというのもメイキングを見て知った。描いたのは撮影前で、ケイト・ウィンスレットとほとんど初対面だったキャメロンは「ヌードじゃなくてビキニ姿でいいからね……」と頼んだので、あのビーチクはキャメロンの妄想なんだな。ってなんだその話。

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最後に、ぼくの好きなシーンを。沈没寸前の中、救命ボートに乗り込んだローズ。見上げた目線の先には、婚約者のキャルドンと、その隣にいるジャックの姿。キャルドンとジャック二人もローズを見つめている。尚も目線を送るローズ。カットが切り替わると、ジャック単体のバストショット。彼女の目にはもうジャックしか映っていない!ジャックの背後で危急信号を伝える花火が上がる。その光がローズの顔を照らす。決心した女の顔。その瞬間、彼女は救命ボートから飛び降り、再び船へと乗り込む。ジャックと会うために!「飛び込む時は一緒よ!」

このシーンの好きなところは、まずこれをローズ視点ではなく婚約者のキャルドンの視点で観ると、彼もまた、ローズと「視線」が「合っている」と思っている哀しさがある。彼からしたら、ローズの突飛な行動もまた、自分自身に向けられたアクションであると捉えることが出来るわけだけれど、彼よりもジャックの方がローズの元へと速く走る。運動によって物語られる予約された敗北。

そして、編集によってジャックとローズの「視線」が合う瞬間の美しさは、観客の誰しもが「ローズは二人ではなくジャックだけを見つめている」という予感を確信へと変容させ、この二人の物語が動いてほしいと願った瞬間にキャラクターがアクションを起こす、この流れの躍動感がすごい。視線を無理やり繋げる映画のマジックに、ぼくはとても弱いのです。

タイタニック』では、ジャック救出へと向かうローズが乗るエレベーターやロープで降下していく救命ボート、船自体の沈没や沈むジャックなど、下降する・落下する運動が何度も登場する。まるで身分を関係なく、貧乏なジャックの元へと上流階級のローズが降り立つように。

そして彼女が「見上げる」というアクションは、初めはジャックがローズをデッキで初めて見た際にしていた動作だということを失念してはならない。その後、階段を下りるローズをジャックが見上げる動作は反復されるけれど、その後すぐに、今度は時計の前で待つジャックをローズが見上げることになる。ここから、ジャックはローズを一度も見上げることなく、やがて海底へと沈むまで「見上げ」の関係は延長される。高嶺の花を見上げていた彼は、高嶺の花を見上げながら死んでいく。ラストシーンは、文字通りローズがジャックを「見上げ」て、そして「並んで」終わる。こうして、上下の関係性がやがて並列となる。当たり前だけれど、映画における俳優の演技というの重要かつマジックだなあと改めて感じた。

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