20世紀ゲネラールプローベ

電影永年私財法を発布するべくゲネプロ中の備忘録。

2019年外国映画ベストテン

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10位 『名探偵ピカチュウ』(2019/ロブ・レターマン)

21世紀の『ロジャー・ラビット』。完璧にデフォルメされた可愛いキャラクターたちをフィルムノワールの世界に放り込むという試みだけで大成功している。デジタルカメラではなく、35mmフィルムカメラで撮られた摩天楼の美しさ、濡れた地面、ブレードランナー的未来都市の風景にうっとりした。ポケモンに対するノスタルジーに甘んじることなく、こうした映画的な、ましてやノワール的な試みは高く評価されるべきだと考える。オッサンピカチュウがただただ超可愛い。尊い。「おれがお前の父親だったら、世界一誇りに思い、抱きしめてやるぞ」泣かす。フレーム内が可愛いもので埋め尽くされているだけではなく、もしこの現実世界にポケモンがいたとしたら、というセンス・オブ・ワンダーを丁寧に描写しているのも、この作り手たちを信頼できる理由だ。コダック可愛かったなあ。

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9位 『ジョーカー』(2019/トッド・フィリップス)

教科書から抜粋したかのような模範解答的な狂気をもって、本作を評価する気は起きない。『ジョーカー』には、ホアキン・フェニックスという生き物の怪演が記録されている。もしくは、怪物の名演。本作が世界中で拒否されることなく、むしろ共感をもって過剰に受け入れられたという現象は、それがマーケティング的なシリアス路線による成果なのではなく、単に「現在」の映画だったからだと考えられる。考えられるが、同時に、寒気がする。とっととこんなクソ世の中、ジョーカーの手によって転覆していただきたい。トッド・フィリップスによる『タクシー・ドライバー』や『セルピコ』や『キング・オブ・コメディ』などの名作群へのオマージュには全く愛を感じられないし、むしろ下手っぴだったので、それこそ初期構想の通りスコセッシが撮っていたらなあ、と無い物ねだりするくらいには大事な一本。全方位的に虚構性が高く、どこまでが現実でどこまでが妄想なのかしらと、虚構についてあれやこれや人と話し合うのが楽しい映画でもあった。ブルジョワたちが『モダン・タイムス』を観て爆笑しているシーンが観ていて一番キツかったです。

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8位 『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018/ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン)

「絵が動いてらす〜」という原初的な歓びが、一周回って最新鋭の娯楽として成立しているエポック・メイキング。漫画をアニメーションにトレースするというよりは「漫画それ自体を動かす」という、言葉だと何言っているのか理解しがたい、ゆえに真に映画的な大実験の大成功。どのコマで一時停止しても完璧に「絵」になってて超絶。加えて、多元宇宙論の再解釈としての役割も担っており、いくつもの宇宙の中に君が存在しているのではない、君の中にいくつもの宇宙のような可能性があるんだ、という力強いメッセージには胸を打たれる。ヒーローになることを諦めるな、確かにヒーローにはなれないのかもしれない、でも諦めた瞬間に可能性はゼロとなる、決して諦めなければ、君がヒーローである宇宙が存在する可能性は1%だろうと、あるんだ、ゼロじゃないんだ!泣ける。いつも心にペニー・パーカーちゃんを。

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7位 『ハウス・ジャック・ビルト』(2018/ラース・フォン・トリアー)

トリアーによる自己セラピーであると同時に究極の開き直り自己問答ブラックコメディ。ほとんどトリアー版『風立ちぬ』、あるいはトリアー版『鏡』。地獄に堕ちる覚悟さえあれば、それがどんなに間違っていることでも、美しさについて無我夢中で追求できる。俺は神に裁かれる罪を背負ってる。上等だよ。どうせ人間なんか一人残らず罪人なんだから。正しさのみを主張する輩に「ここから出て行け」と言われる前に、背負える罪は背負っておこうぜ。ヒトラー万歳!……と、そんなことを考えてビックマウスしちゃう自分がイヤーンなトリアーの悲鳴も聞こえてきて、悪いけど、もがき苦しんで葛藤している映画監督というのは本当に超かわいいなあ、と思いました。映画監督なんか殺人鬼と同じ。カメラという凶器を手に、今宵も加害者であり続けるのだ。間接的にブルーノ・ガンツを撮り殺した映画として、本作が末長くシネフィルたちから忌み嫌われますように願っております。

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6位 『サスペリア』(2018/ルカ・グァダニーノ)

ダリア・アルジェントによる愛すべきオリジナルから遥かに飛躍して、全く異なるディメンションで再構築された本作は、果てしなく政治的な恐怖映画としてもれなく価値がある。ポリティカルであることの雄弁さ以前に、政治とホラーは切っても切り離せない関係にあることをヴィジュアライズしてみせた手腕だけで高度だ。ほとんど、行われていることはジャック・リヴェットの作品に近い。あざとさすら感じるフィックスによる撮影や編集もぼくには大好物で、クライマックスで結局アルジェント的な真っ赤な画面になるのも笑ったし、トム・ヨークによる劇盤も心地良く、ずっと観続けていたいと思うほどに楽しかった。ババアがババア同士で集まってバカテンションで晩酌しながらババアを謳歌していたりするのでババア映画としても非常に愛おしい。ラストは不意打ちで泣かされた。ジェシカ・ハーパーを久々にスクリーンで拝めただけでも有り難かったです。

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5位 『ミッドサマー』(2019/アリ・アスター)

作品構造としては『ハウス・ジャック・ビルト』と似ていて、本作もアリ・アスターにとってのトラウマ自己治療映画として機能している。ここで癒されるのは彼自身の失恋の経験なのだけれど、本作は更に普遍的に「選ばれなかった人々」に対する賛歌として彼らを鼓舞する。選ばれなかった者が選ばれたとき、何を、誰を「選ぶ」のか、という本作の最終的な着地点は、それが地獄のような光景であれ、紛れもなく美しく、アリ・アスターも含めた「選ばれなかった人々」へのこの上ない救済となっている。したがって本作には、前作『ヘレディタリー』にみなぎっていた世界を呪い殺すかのような暗黒ではなく、その暗黒からの脱却を目指すべく前向きな生命力すら漂っている。その証拠に、ほとんどブラックコメディに等しい展開が巻き起こるのも、既にアリ・アスターが『ハウス〜』のトリアー同様に開き直りに成功しており、ユーモアをもってしてこの世の絶望を笑い飛ばそうとしているそのクリエイティビティには、今後の更なる期待を膨らませる。また、映画と切り離せない関係性にある「光」へのアプローチとして、光への嫌悪感を丁寧に吐露している辺りも信頼に値する。今いる場所が地獄ならば、別の場所で光を浴びてみないか。たとえその場所が新たな地獄であったとしても、光は浴びれるのだ。しかし、映画の光が救いだなんて、戯言もほどほどにしてほしい。映画館は闇であって、我々が観ているのは光ではなく「影」なのだから。

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4位 『魂のゆくえ』(2017/ポール・シュレイダー)

超越主義の映画。ポール・シュレイダーが提言する「聖なる映画」の模範解答でありつつ、彼の集大成として確立している。ブレッソンタルコフスキーやドライヤーや小津をなぞりながら、特にブレッソンの『田舎司祭の日記』を引用しながら、堂々たる「聖なる映画」をついに撮り得た功績。とは言え、やはりどうしても、もはや生理として『タクシードライバー』と化していくので、ほんと、シュレイダーはこのルサンチマンから生涯抜け出せない作家なんだな、いやでもここまで突き通していたらむしろ作家性として確固たるものです、ご立派。そもそも「映画とは神に近づく新たな宗教」として捉えていたシュレイダーが、カメラワークによる抑制と解放によって、観客に宗教的な奇跡をヴァーチャルに窃視させる、超越させるという理論を徹底的に実践してみせたのが本作である。よくこのご時世に、当時72歳のおじいちゃんが本腰入れて作ったもんだ、感服します。タルコフスキーで寝てしまうすべての人を肯定してくれる。「タルコフスキーで寝るなんて愚行も甚だしい」と抜かすエセ・シネフィル・スノッブ野郎は爆弾巻かれて爆発しちまえ。

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3位 『バーニング 劇場版』(2018/イ・チャンドン)

21世紀の韓国製アントニオーニ映画。ほとんどメタファーで埋め尽くされた全編は、それゆえに映画的な好奇心に満ちているし、カメラは万年筆であることの証明として、韓国に留まらない世界共通の社会問題がぎっしりと理詰めされており、加えてアントニオーニを模したイ・チャンドンによる語り口と映像美には恍惚するし、とにかく満腹、ご馳走さまでした。「あるということを意識するのではなく、ないということを忘れる」フィツジェラルドのグレート・ギャツビーから村上春樹に繋がりアントニオーニを経て終着するイ・チャンドン先生による本作は、劇中のベンが言う通り「メタファー」であり「ミステリー」ではない。ヘミのように、僕らのグレート・ハンガー(大いなる飢え)が満たされることはなく、やがては初めから無かったかのように、皆、消えていく。真に取り返しのつかない時代の、真に恐ろしい寓話による、真のフィクション賛歌。ジョンスが「書き始めた」ように、まずは「書く」ことから始めよう。消えないために。

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2位 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019/クエンティン・タランティーノ)

映画は夢の構造と酷似しているし、夢を表現するのに最も適した芸術は映画であるということは再三言われていることだけれど、夢は覚めてしまえば、再び同じ夢を見ることはほぼ不可能だといえる。しかしながら、映画は、再びそれを観るという行為によって、端的に言って永遠に覚めることのない夢を容易く獲得することが出来てしまう。タランティーノが紡いだこのおとぎ話は、失われた、あるいは喪われた時代を半ば強制的に「永遠」として帰結させる。この甘いロマンティシズムに石を投げる者は、ハッキリ言おう、映画好きなんかじゃない。人は何かを喪ってしまうからこそ、その穴を補完するために何かを創るのだ。ディカプリオもブラピも、彼らが真に素晴らしい映画俳優であることを再認識させてくれた。作品構造それ自体はフェリーニの『甘い生活』同様に、明確なストーリーラインや三幕構成すら持っていないにも関わらず、約3時間が驚くほど退屈しないのは、やっぱりタラちゃんアンタの映画。シャロン・テートがいびきをしながら眠っている姿を見て、確かに、当たり前に、そんな彼女がいたことを忘れまいという想いに涙した。シャロン、夢から覚めなくていいよ、ゆっくりとおやすみ、もう、大丈夫だよ。

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1位 『CLIMAX クライマックス』(2018/ギャスパー・ノエ)

「いいないいな、にんげんっていいな」と呑気に憧れている動物さんたちに残酷にも一言。「にんげんなんか、なんにもよくないぞ」人間なんて所詮はちんことまんこのことしか考えていない馬鹿な生き物だ。「心」なんてものは本当は無い。あるのはぐにょぐにょな脳みそだけで、脳みそをLSD入りのサングリアによって解放してあげたとき、脳みそは更にぐっちょんぐっちょんのぐわんぐわんな状態と化し、もうそこに「心」なんて欺瞞は消えてなくなる。真の人間の姿が露わになったとき、「にんげんっていいな」という言葉は最大限の皮肉として意味を獲得する。しかし、そんな馬鹿な生き物が時たま「心」を得ることが出来る瞬間がある。それは「表現」をしたり「表現」に触れている時間だ。本作において、ちんことまんこのことしか考えていない馬鹿な人たちが、ダンスを踊っている10分間だけは一心同体となるとき、僕は「表現」が持つ圧倒的な強さと美しさにもんどりうった。つまり、人類は馬鹿で協調性なんて皆無だからこそ「表現すること」は大切だよね、という普遍的なメッセージがある。地獄絵図を徹頭徹尾に爆裂させているのも超偉い。『カルネ』から一貫する胎内のイメージが、アルコールと『サスペリア』オマージュによって悪夢的空間と化すのも超アッパーで楽しい。ともかく踊り続けよう。音楽を絶やすな。それこそが、それだけが、僕も含めた馬鹿たちが発明した、最も簡単な「しあわせ」なんだから。

 

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特別枠 『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

初感はFilmarkshttps://00m.in/pq8XGに記したのでそちらを参照いただくとして、こんなにも映画を観ていてアンビバレンスに精神を引き裂かれる想いはしたことがなかったので、明確に寿命が縮んでしまった実感も含めて忘れないでおきたい作品。この文章を書いている時点で5回観ているのだけれど、5回観る理由が「とてつもなく好きだから」なのか「あまりにも嫌いだから」なのか、皮肉ではなく自分でも判明出来ないままでいます。それこそ、本作がスター・ウォーズたる所以なのかもしれないけれど。スター・ウォーズの新作が毎年公開されるという、あまりにも精神的にも肉体的にも不健全な状態が2015年の『フォースの覚醒』から4年間も続いてしまい、そりゃ最終的にはボロボロになるわなと反省しまして、何はともあれ来年からは適切な距離でスター・ウォーズには触れてゆきたいものです。たかが映画だしね……いやスター・ウォーズはたかが映画じゃねえんだよ!(情緒は限りなく不安定です、でも4年間楽しかったです)

 

【2019年外国映画ベストテン】

  1. CLIMAX クライマックス
  2. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
  3. バーニング 劇場版
  4. 魂のゆくえ
  5. ミッドサマー
  6. サスペリア
  7. ハウス・ジャック・ビルト
  8. スパイダーマン:スパイダーバース
  9. ジョーカー
  10. 名探偵ピカチュウ

【特別枠】スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け